発泡スチロールによる海洋ごみ問題とその対策(その4)

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    . 高耐久性フロートへの転換
    鹿児島県はブリ・カンパチ養殖日本一の地域であり,特に鹿児島湾の垂水市漁協は,県内有数の規模を誇ります。鹿児島湾では,1989年に台風11号 が襲来し,垂水市漁協のほとんどの生簀が沈むという事件がありました。発泡スチロール製フロートは,水圧がかかると気泡がつぶれて浮力を失うことから,一度沈んだ生簀は再度浮上することはありません。そのため,この事故を契機に漁業者は耐圧機能を持ったフロートへの転換の必要性を感じたそうです。同漁協は,鹿児島県内の発泡スチロール製フロートのメーカーである安井(株)と共同で厚さ5mmのポリエチレンフロートの内部にスチロールを充填発泡させた耐圧性発泡スチロール製フロート(パワーフロート) を開発しました。この新型フロートは,従来のフロート3倍の価格でありながら,耐圧性もさることながら耐候性も高いことから,従来のフロートの3倍以上の 耐用年数を持ちます。また破片が発生しないことはもちろんのこと,生簀網交換時における付着生物の除去が容易で,内部への異物の混入も無いことから,マテリアルリサイクルが可能であるという特徴ももちます。垂水市漁協では,その後10年をかけて所属するすべての生簀のフロートをこの耐圧性フロートに転換しました。なおこのフロートの転換は,漁業者による漁場環境保全意識の高まりや漁業の 効率化,食の安全確保といった視点からだけでなく,メーカーによる海洋環境保全意識の高まりによる新商品の開発および販売の推進によるものも大きいです。 その後,鹿児島湾では周辺漁業者もこのフロートへの転換が進んでいます。

    . 今後の課題
     鹿児島湾では,2000年より湾内市町が年2回の海岸清掃を行うようになり9),海岸に漂着散乱している発泡スチロール製フロートや大型の破片は,継続的に撤去されてきました。また通常人が入ることができない桜島周辺の溶岩海岸に漂着したフロートも2014年 度内に回収されることが決まっています。しかし同湾では,廃フロートの小型船舶用防舷材へのリユース問題がまだ残されています。この問題の解決には,供給 源となる廃フロートの処分の推進と漂着フロートの回収によるリユースの阻止と共に,適切で経済的な代替え防舷材の提案および現在不適切な使用がされているフロートの処分の実施により,代替えを促進していかねばならなりません。2014年3月,鹿児島県は小型船舶オーナーに対し,この問題に対する認識を高めるための勉強会を開始しました。今後の展開に期待したいところです。
     一方で,日本海沿岸における越境フロート問題については,韓国においてその実態把握がようやく始まったところです14)。これは10年以上に渡る日韓NGOのネットワークによる問題点の共有から生まれたものであり,政府による外交による対応だけでは海ごみ問題は解決しないことを物語っています。
     本来,発泡スチロール製品の海上での使用は,水分が浸透し脆いため,製品としての使用期間が短く,長い目で見ると不経済であり,破片の発生とその散乱を考えると環境への影響が大きいという問題点があります。2013年3月に発生した津波によって流出した発泡スチロールがアラスカやカナダ等の北米西海岸に大量漂着し,その海岸で大量の破片が発生しました15)。 発泡スチロールは,一度流出してしまうと浮力があるため風の影響を受けて漂流するため,周辺環境だけでなく広範囲に拡散し,遠方の海岸にも影響を与える可 能性があります。よって海面での発泡スチロール製品の使用は極力避けるべきです。今後は,発泡スチロール製フロートの使用者がこのような問題性を理解した 上で,鹿児島湾で行われたように,便利で性能が良い代替え資材を開発し,適切な廃棄を促進することにより順次変換を進めながら,リユースされる供給源を断ち,合わせて海岸清掃活動(回収活動)により過去に流出した負を取り除く活動を広域に展開し,それらを継続することが,海洋における発泡スチロール破片の散乱防止には必要と言えます。

    引用文献
    1)発泡スチロール協会(http://www.jepsa.jp/recycle/achievements.html)
    2)一般社団法人JEAN:2012年年間活動&クリーンアップキャンペーンレポート,東京,14-25 pp,2013.
    3)藤枝繁・池田治郎・牧野文洋:鹿児島県の海岸における発泡プラスチック破片の漂着状況,日本水産学会誌,68: 652-658,2002.
    4)藤枝繁・藤秀人・濱田芳暢:鹿児島湾海岸における発泡プラスチック製漁業資材の漂着状況,日本水産学会誌,66(2): 236-242,2000.
    5)海と渚環境美化推進機構‏:平成16年度発泡スチロール漁業資材リサイクル確立事業に関する報告書,東京,2005, 29 p.
    6)藤枝繁・柴田剛志・日高正康・小島あずさ:鳴砂の浜を含む全国30海岸における微小プラスチックの漂着実態,漂着物学会誌,4: 9-14,2006.
    7)藤枝繁:瀬戸内海における微小プラスチックごみ,沿岸域学会誌,24(1): 57-65,2011.
    8)藤枝繁:伊勢湾海岸に漂着散乱する微小プラスチックごみの分布,漂着物学会誌,8: 1-6,2010.
    9)クリーンアップかごしま事務局:かごしまクリーンアップキャンペーンレポート2002,鹿児島,24 p,2003.
    10)発泡スチロール協会(http://www.jepsa.jp/recycle/epsyplaza.html)
    11)海と渚環境美化推進機構‏ (2004. 発泡スチロール漁業資材リサイクル確立事業に関する報告書(平成15年度),東京,1-8 pp.
    12)一般社団法人マリノフォーラム21, 財団法人海と渚環境美化・油濁対策機構 (2013).
    平成24年度漁場漂流・漂着物対策促進事業のうち漂流・漂着物発生源対策等普及事業報告書,東京, 4-33 pp.
    13)Shigeru FUJIEDA:Marine Debris Issue and Prevention Practices of Discarded Expanded Polystyrene (EPS) Floats in Japan, Mem.Fac.Fish.Kagoshima Univ.,62,11-20,2013.
    14)Su Yeon Hong, Chan Won Lee, Sunwook Hong, Jongmyoung Lee and Yong Chang Jang:Evaluation of beach pollution by aquaculture styroform buoys in Tongyeong, Korea, Journal of the Korean Society for Marine Environment and Energy, 17(2):104-115,2014.
    15)一般社団法人JEAN,平成25年度 東日本大震災に伴う洋上漂流物に関する海外動向調査報告書,2014(平成26)年3月

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