これからの海へ

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     昨年12月,山口県下関で「NPO法人環境みらい下関」が主催するワークショップに講師として参加してきました。その後,山口の海についてコラムを書いてほしいと依頼があり,以下のような文章を作成しました。山口はライタープロジェクトや瀬戸内海総合調査でほとんどの海岸を巡りました。学生と巡ったいろいろな思い出を込めて書きました。次訪れる際には美しい海岸であることを期待しています。

    これからの海へ

     残念ながら山口の海岸は漂着ごみだらけだ。海のごみは,海流や潮流さらには海の上を吹く風によってできる「海の流れ」に従って流れ着くため,山口県の日本 海沿岸には,朝鮮半島南岸から流出したものだけでなく,対馬暖流に乗って中国大陸や台湾からも漂着する。一方,山口県の瀬戸内海沿岸には,主に瀬戸内西部 から流出したものが漂着する。特に周防大島には,その位置と地形から,広島湾起因の漂流物が大量に流れ着いている。ここまで記すと「山口県は被害者だ」と 感じる読者も多くいるだろう。しかし山口県から流れ出たごみは,海の流れに従って下流側の日本海北部や瀬戸内海の対岸に漂着する。すなわち海ごみ問題は, 被害者と加害者の関係が一対一ではなく,循環する海の流れに従って繋がっていると言え,解決に向けてすべての地域が同様に取り組まなければならない問題で もある。

     とは言っても,陸に生活する私たちは,自ら海に向かってごみを捨てたことなどないだろう。なのになぜ,海にこんなに沢山のごみがあるのか。それは街中に散 乱していたごみが,雨水や河川という水の流れを通じて海に流れ込むためである。陸域でのごみの管理と適切な処分について十分に行っていると言う声も聞こえ そうだが,それは家庭(自分の周辺)の範囲であって,街中には残念ながらごみは落ちている。そのわずかなごみが最終的に流れ着くのが海であり,瀬戸内海で それらをかき集めれば,年間4,500トン(瀬戸内海に流入するごみの量)にもなってしまう。さらに海ごみは,すでに流出が始まってから相当な年月を経て おり,過去からの蓄積がすでに大量にある。それにもう一つ加えるなら,今後も止まる見込みがないということである。
    このように絶望的な海ごみ問題であるが,私たちはここで諦める訳にはいかない。なぜならば,ごみとなるものを作り出すのは地球上で私たち人間のみであ り,今後も私たちは出し続ける。特にプラスチックは,海洋中に放置されると有害化学物質を吸着し,微細破片化して回収が困難となってしまう。

     では,これから私たちはどうすればいいのだろうか。まず海ごみの発生抑制は,緊々で重要な課題であることを認識しなければならない。教育や普及啓発活 動,3Rの推進,デポジット制の実施が叫ばれているが,それらだけでは地域内からの流出や他地域からの漂着を今すぐゼロにすることはできない。また過去す でに流出してしまったごみも大量に存在する。よって現状では,「低密度の維持」を目標に,海ごみの回収を促進し,それを無理なく継続する体制を構築するこ とが求められる。これまでの調査の結果,海岸のごみは2割の海岸に8割のごみが堆積していることがわかっている。回収に費用と手間がかかる海ごみの密度を 効率的に低減するためには,身近な海岸での回収ばかりではなく,特にごみの堆積している海岸を事前に明らかにし,最もごみの多い海岸から順番に回収する重 点回収の実施が必要だ。
     また回収活動を広げることだけに注力してもいけない。なぜならば,せっかく始まった活動も,いずれスタミナが切れ,または他に関心が移るなどして活動が先 細りになってしまう。それを防ぐためには,常に外部からエネルギーを注入し続けなければならない。しかし新たな活動を始めるのに比べ,継続は効果が見えに くいため,エネルギーの注入方法が難しい。これこそ「NPO環境みらい下関」の力の見せ所である。

     最後に,山口の海岸は漂着ごみだらけであるが,海は美しい。海ごみの存在は,海を持つ地域にとって重大なマイナス要因であるため,ごみだらけの海を一般の 人に見せたり,海岸にごみがあることをアピールすることなどしたくないだろう。だからといって回収活動を地域の人だけで行うには限度がある。ではどうすれ ばいいのだろうか。ごみの存在は確かにマイナスである。しかしごみを回収し,きれいな海を取り戻す行動はプラスの活動である。ぜひとも,積極的に地域外の 方に協力を要請し,実際に海岸に出て海ごみの回収活動に参加してもらおう。きっと参加者は,ごみだらけの海岸に行ったという思い出ではなく,私たちが美し くしたというプラスの行動を心に刻むことになり,末永く山口の海を愛し,そこでの出会いを大切にしてくれることだろう。
     
    一般社団法人JEAN 理事 藤枝 繁
    (NPO法人環境みらい下関2015年4月号 http://www.kankyo-mirai.jp/kantoubun.html

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