鹿児島大学水産学部退職の挨拶

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    皆様へ
     本来ならば,皆様の前でご挨拶をするべきところですが,鹿児島にはたくさんの思い出があり,皆さんの前でご挨拶すると涙が止まらず,最後までお話ができる自信がありません。そこでこれまでの経緯と現在の心境をここに記し,退職のご挨拶とさせていただきます。
     熊本県立水産高校の教員募集を知ったのは,専攻科に入学した春の航海でした。敬天丸のブリッジで湯脇船長から「君の田舎は天草だろ,受けてみないか。」と声をかけられ,遠洋航海で帰港後すぐに採用試験を受けました。きっと色の黒さで合格したのだと思います。水産高校では,漁業や航海の科目を担当する一方で,部員数8名の野球部の顧問として,毎日毎日生徒と一緒に白球を追いました。しかし,夏の大会では一回戦で大敗。それでもこの道は甲子園に通じると,3年生が抜けた夏休みも残された6人でグラウンドを走り続けました。先日,お風呂で我が家の子どもたちから,「ねえ,お父さん,子どもの頃,松岡修造のような熱血教師っていた?」と聞かれ,「そうねえ,おっかない先生はたくさんいたけど,あんな先生はいなかったかもなあ。」と答えました。でもよく考えてみると,生徒から「新米先生」ではなく「玄米先生」と呼ばれ,色黒で声が大きく,ランニングも学生たちに負けない私は,熱血教師だったのかもしれません。熱い夏が終わり,体育祭,文化祭の準備が忙しくなった10月,M先生から大学に来ないかとのお電話を頂きました。練習船で兄や父のように接していただいた乗組員の皆さんと一緒に仕事ができると考えると,すごく嬉しくて飛び上がったのを覚えています。しかし一方で,甲子園を目指す野球部員や,一緒に乗船するのを楽しみにしている漁業科の生徒のことを考えると決心がつきません。校長先生から引き止められれば残るつもりで校長室に相談に行きましたが,逆に背中を押されてしまいました。というわけで,私の高校教員生活は,スタートダッシュが終わらぬうちにゴールへ向けてラストスパートというものとなりました。3月末の離任式当日まで退職することを告げてはいけないと言われていたため,離任式当日,会議室の黒板に退職者として私の名前を見てほとんどの先生はびっくりされていました。もちろん体育館に集まった生徒たちは,私が去ることなど知らず,ぽかんとしていました。離任式では,思い出ややり残したことがたくさんあり,言葉で気持ちを説明することが出なかったため,壇上で【おいらの船は300トン】を力一杯歌いました。涙が止まりませんでした。
     大学に赴任後は,専攻科教育,練習船航海士を担当し,海洋スポーツや漂着物を通じて海への関心を高める活動に力を注いできました。特にここ15年ほど取り組んで来ました漂着物との出会いは,ナホトカ号重油流出事故の重油回収ボランティアに学生と一緒に参加したことに始まります。その後,海岸清掃活動のボランティア事務局を運営する傍ら,海ごみの研究も行い,瀬戸内海や伊勢湾の総合調査から,全国,東アジア,さらに震災後は北太平洋から北米大陸へと研究範囲も広がりました。研究で各地を訪れただけではなく,海をきれいにしたいという思いを持った人と海を越えてつながれたことは,23年前には想像もつかなかった財産です。
     一方で,研究は海ごみの実態把握から法律の制定,地域計画の策定等,次第に水産学から遠ざかっていくようになりました。また大学では,専攻科の廃止,練習船の統合があり,私の航海士としての役割もなくなりました。またいつもそばにいた熱血教師の大先輩G先生とH先生を相次いで失い,さらに平成27年度から水産教員養成課程の募集停止が決まったことから,学部における虚無感は昨年春からさらに大きくなってしまいました。
     そんな中,「大学での研究と教育は,今年で一区切りがついたと考えて,人生にまだ残りがあるんだから,元気なうちに新たなことにもう一度チャレンジしよう。」と考えるようになりました。おかげで今では,以前のように新たなエネルギーが湧いてきています。またこの一年,悔いが残らないように終わりの準備をすることができました。元気で今回も終わりを迎えられたことに幸せを感じています。この4月からは,神戸を中心に全国を飛び回ることになりそうです。全く異なる世界ですが,「心配するなら準備しろ。」これはいつも学生に行ってきた言葉です。準備には100%はありません。しっかり準備をして新しい職場でも熱く元気に進んでいきたいと考えています。
     以上,長くなりましたが,これまでたくさんの皆様に大変お世話になりました。思い出の詰まった母校の発展を祈念しております。ありがとうございました。
    2015331
    藤枝 繁

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