帰ってくる“震災起因漂流物”

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    ジョンストン環礁に漂着していた水上バイク(米国魚類野生生物局提供)

    2014年5月21日,ハワイオアフ島の南西700マイル沖合にある無人島「ジョンストン環礁」の海岸に,一台の水上バイクが漂着しているのが見つかった。発見したのは米国魚類野生生物局の調査員。彼等は年に二度,野鳥調査のため,この島を訪れている。彼等はこの水上バイクが震災起因の漂流物ではないかということで,調査船に載せ,ホノルルに持ち帰った。震災起因漂流物が太平洋の小さな島に漂着することも奇跡であるが,これまで震災起因洋上漂流物に関わってきたすべての人の手を通じて帰還の途についたこの話も,もう一つの奇跡の話である。
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    この話の始まりは2011年9月に遡る。9月23日,愛媛県松山市で行われた「海ごみサミット愛媛会議」で,今後の震災起因漂流漂着物対策について討議された。震災から半年が経ったこの時期,少しずつではあったが,各方面の努力により今後漂着予想される震災起因洋上漂流物についての現状把握が進められていた。しかし北太平洋は広く,把握できる範囲が限られているため,日本近海から離れた漂流物に関しては,十分な情報が得られずにいた。そんなことから対岸(北米大陸西海岸)への大量漂着への対応についても,議論はこれからという状況であった。

    私はこのサミットの2週間前,ハワイでハワイ大学IPRCのマキシメンコ博士と面会した。そのとき彼から,漂流シミュレーションが正しい結果を示しているのか漂着までに確認する必要がある。そのため,洋上での目視調査が必要だとの提案を受けた。私は「できたらいいね」ぐらいの返事をして帰ってきた。帰国後すぐ,教育実習で宮崎県立宮崎海洋高等学校を訪れた際,玄関にある実習船の航跡図をみてひらめいた。水産高校の実習船の航跡と漂流物の航跡が一致する。全国の水産高実習船を使えば,漂流物の目視調査が可能だということを。そこでこのサミットでその実施を提案した。(詳しくはこちら「津波起源漂流がれき洋上目視観測」)その晩,この時のニュースを見ていた愛媛県立宇和島水産高校のT先生から,私たちにお手伝いできることがあれば遠慮なくどうぞというメールが届いた。全国の水産高校の協力を得て,2011年10月から10隻の水産高実習船による目視観測がスタートした。

    その後JEANは,環境省,地球環境基金,笹川平和財団,自己資金などを用いて「東日本大震災に伴う洋上漂流物に係る日米加NGO連携活動」に関する調査事業を実施した。この事業で私は,2013年1月に再びハワイを訪れ,ハワイのNGO,政府関係者,研究者とシンポジウムや現地調査を行った。その際の現地コーディネイターがハワイ州のICCコーディネイター,クリスさんであった。

    クリスさんは,シンポジウム後,ハワイに漂着する震災起因洋上漂流物の情報を私たちに提供してくれていた。彼女は7月23日,米国魚類野生生物局がジョンストン環礁から水上バイクを持ち帰ったことを知り,JEANに所有者を捜すことはできないかと写真を送ってきた。JEANは,日本小型船舶検査機構を通じて写真に写った船体登録番号から所有者が福島県いわき市在住の松永さんであることを突き止めた。9月18日,本人と連絡がとれる。10月1日,JEANはハワイのクリスさんおよび発見者の一人であるリーさん他にこのニュースを知らせた。

    実は10月2日にクリスさんから私に対して,日本の所有者に返還する方法として,水産高実習船を使う提案を受けていた。ちょうどこの時,私たちJEANのメンバーは,バンクーバーでの震災起因洋上漂流物に関するシンポジウムに参加しており,帰国後も私は台風やら瀬戸内海出張等でこのメールを見逃していた。

    10月22日,一連の発見に関するニュースが,福島の新聞に掲載された。現地で撮影された写真の提供の確認のため,掲載がこの時期になったようである。

    2014年10月22日福島民友新聞より
    水上バイクがハワイに漂着 東日本大震災の津波で流出

    「 東日本大震災による津波で大熊町熊川から流された会社員松永友宗さん(48)の水上バイクが、日本から約5000キロ離れたハワイのオアフ島近くにある 無人島・ジョンストン島の海岸に漂着、発見されていたことが21日、関係者への取材で分かった。松永さんは「あきらめていた水上バイクがまさかハワイで見つかるとは」と驚いている。
     松永さんは津波で家が流された。原発事故の影響もあり、現在はいわき市に住む。松永さんによると、5月中旬ごろ、米国魚類野生生物局の隊員らが海鳥の調査中、水上バイクが裏返しで海岸に漂着しているのを発見した。環境保全活動に取り組む東京の団体を通じ、松永さんに発見の知らせが届いた。同団体による と、船体番号から松永さんが所有者と分かったという。
     松永さんは2003(平成15)年に友人からこの水上バイクを譲り受け、黄色に塗装し直して同市の久之浜沖で使用するなど、愛着はひとしおだった。発見時は椅子やハンドルが流され、塗装も剥がれた部分があったが、ほぼ原形のままだったという。
     松永さんは「愛用していた水上バイクが津波にもまれながらも沈まずに流れ着いたことに感動した。わざわざ知らせてくれた人々のつながりにも感謝している」と話している。
     水上バイクが松永さんの元に戻るかは未定という。」
    http://news.goo.ne.jp/article/fminyu/region/fminyu-14792357.html


    偶然,この記事の掲載と同じ日の10月22日,ハワイのクリスさんから私に10月2日に送ったメールの再送が送られてきた。(もちろん私は所有者探しの作業に関わっていなかったので上記新聞記事について後になって知ることになる。)内容はスーパー台風の被害は大丈夫というお見舞いのものであった。大丈夫だよと返事し,その後に続く彼女の提案(水産高実習船を使った日本への輸送)については,ちょっと調べてみるねぐらいに軽く返事をした。

    ただ,よく考えてみると,9月の上旬に出港した水産高校の実習船は,2週間で漁場に到着し,約一ヶ月のマグロ延縄操業実習後,ホノルル港に寄港する。よってカレンダーを見るとちょうど今が各船が入港する時期である。彼女の提案もなかなか的を得たものだった。現在,300トン以上の国際航海をする船舶には,AIS(自動船舶識別装置)の搭載が義務づけられており,ホノルル港周辺の船舶の状況をネット上で確認することができる(ライブ船舶マップ)。AIS情報によると10月22日,ホノルル港には宮崎県立宮崎海洋高校実習船「進洋丸」が停泊していた。進洋丸はこれまで目視調査に協力していただいている実習船であるが,実習船の停泊期間が3−4日であることから,すでに入港済みの船舶は明日にでも出港する可能性がある。そのため進洋丸にお願いするには時間がない。そこでこれからの入港を期待して,だめ元で前述のえひめ丸の指導教員であるT先生にメールした。ライブ船舶マップでは,ハワイから離れた太平洋を航行している船舶を捕捉することはできない。彼等がどこにいるかわからなかったので,返事はほとんど期待していなかった。冬にも航海があることだし,今から冬に向けて準備をすればいいというつもりで。

    そうしたら,翌日10月23日朝,T先生からメールが帰ってきた。えひめ丸は急病人が出たため,先週,日本に戻ったとのこと。その際,福島丸が明日入港するという情報を教えてもらった。何というタイミング。グッドタイミングが二つ重なった。

    そこで翌日の10月24日朝一で福島県立いわき海星高等学校に電話した。澤尻校長先生に発見から所有者の確認,現状についてお話し,福島丸での日本(福島)への輸送について協力をお願いした。3時間前に入港したということなので,福島丸の桑原船長に電話をしていただき,折り返し船長から電話を頂いた。船長からは,校長先生と相談し,輸送についてはお手伝いしたいが,福島丸には水上バイクを積み込むためのクレーンがない。現地で積み込み用のクレーンを調達してほしいとのこと。早速クリスさんにメール。ハワイでは木曜日の夕方である。ここからホノルル−鹿児島の細かなメールのやり取りが始まる。リアルタイムでこのメールを受け取った人は,面白いぐらい話が進んで行くことにびっくりしただろう。当の本人も展開するスピードの速さにびっくりした。クリスさんは知人の代理店を通じて,トラックとクレーンを手配し,出港日の26日昼までに積み込みをする計画であることを船長と協議した。その間,船長は進洋丸を訪れ,これまで水産高校実習船が行ってきた震災起因洋上漂流物調査について話を聞いたようである。こちらは高校側と到着後の積み降ろし作業手段の確認,小名浜税関と通関手続きに関する確認を行った。またJEANは所有者の松永さんと連絡を取り,受取の段取りについて打ち合わせを行った。その間日本では土日を挟んだため,また私が日曜日に高松日帰り出張であったため,ネットが使えずかなりドキドキした。こんなに短い間で準備ができるのか。しかしホノルルではその週末の間に積み込みに向けた調整が進み,日本時間10月27日朝,ホノルルでの積み込みは無事終了した。船長からはこれから出港するとの連絡が来た。
    10月22日のクリスさんのメールから積み込み終了まで6日間,ホノルル,いわき,鹿児島,東京,宇和島と関係者はそれぞれの地にありながら,話は一気にまとまり,そして進んだ。

    現在福島丸は母港小名浜港に向け航行中,11月10日到着予定である。


    ホノルル港での積み込み(福島丸桑原船長提供)

    太平洋の小さな島に一つの漂流物が漂着するのも奇跡だが,これまで震災起因洋上漂流物に関わってきた研究者,日米加のNGO,水産高校と実習船,すべての人の手を経て,あっという間に日本に向かうことになった漂着後の話も奇跡の話である。今回の出来事を通じて,私は太平洋の流れにもう一つ,人のネットワークによる流れがあることを知った。それぞれの点が一気に繋がったこれぞネットワーク活動の神髄という活動となった。以上が福島民友新聞の記事の行間である。

    返還に関わっていただきました多くのみなさま,本当にありがとうございました。福島丸のご安航を祈念しております。

    2014年10月29日 福島民友新聞より
    “帰国”へ絆のリレー 震災でハワイ漂着の「水上バイク」

     東日本大震災による津波で流され、米ハワイ州の無人島・ジョンストン島の海岸で見つかった大熊町の 会社員松永友宗さん(48)=いわき市に避難中=の水上バイクが、ハワイ近海でマグロ漁の実習を行っているいわき海星高の協力で11月に松永さんの元に戻 ることが28日、分かった。米国の発見者や松永さん、仲介した東京の団体などが紡いだ絆を高校生たちが固く結び付ける。
     松永さんの水上バイクは5月中旬ごろ、米国魚類野生生物局の隊員らが発見、船体番号を手掛かりに海洋の保全活動を行う東京の一般社団法人JEANを通じ て松永さんに知らされた。「何とか持ち主の元へ返すことができないか」と発見者たちから返還の相談を受けたJEAN理事の藤枝繁鹿児島大教授は、いわき海 星高の「福島丸」が24日にホノルル港に入港することを知り、同校の沢尻京二校長に運搬を打診した。沢尻校長は、その日のうちに実習船「福島丸」の桑原茂 樹船長に水上バイクを積めるかどうかを相談、可能なことが分かり、運搬を決めた。沢尻校長は「津波で校舎が被災し、これまで多くの人たちに支援を受けてき た。協力できることは協力したいと思っている」と話す。

    http://www.minyu-net.com/news/news/1029/news7.html


    今回の返還の話は,小名浜到着後,第二話が始まる予定である。


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